偏差値と高校中退率

旧聞に属する話2011-高校中退

 「偏差値の低い高校ほど中退率が高い」。福岡県内にある私立短大の教授が、県内の公立高校110校の中退者数をもとに、こんな研究結果を明らかにしたのは1991年7月のことだった。

 今となっては多分常識であり、当時も多くの人が「薄々は気付いていた」のだが、数字の裏付けはなかった。県教委が「個人が特定されかねず、プライバシーにかかわる」として、学校ごとの中退者数開示を頑として拒否していたからだ。中退問題を研究していた先の教授がこの数字を入手できたのは、県教委を相手取った長い情報公開訴訟に勝訴した後のことであり、それからわずか2、3か月後、教授は研究結果の一端を中間報告の形で世に問うた。それだけ数字は雄弁だったのだ。

 一部を紹介すると、110校の中退者の約50%を特定の20校が占めており、この20校の大半が、いわゆる偏差値の低い学校だった。一方、中退者の少ない20校はすべて地元で評判の高い普通科進学校で、これらの学校の中退者数はゼロに等しかった。偏差値による序列化が格差を生んでいるのは明らかだった。高校ごとの中退者数が個人のプライバシーにかかわるはずなどない。県教委がこの数字の公表を渋ったのは、明らかに自分たちの無策が表ざたになるのを恐れたからだろう。

 昨年は『ドキュメント高校中退-いま、貧困がうまれる場所』(ちくま新書、青砥恭著)=写真=が出版され、偏差値の低い、いわゆる「底辺校」に進学するのは、多くが貧困家庭の子供たちであるという実態を公にした。著者は2001年から「親の所得によって進学する高校が決まり、高校間の格差によって子どもたちの人生、生き方や文化さえも決まると主張」していたが、当時は受け入れられなかったという。

 ただ、先の福岡県のデータが出た際も、偏差値の裏に家庭環境があるのではということは、一部教育関係者の間でささやかれていたように思う。ただ、あくまでもヒソヒソ話であり、表に出ることはなかった。差別と糾弾される恐れがあったからだ。現在、貧困と学力の関係が堂々と語られるようになったのは、子供の貧困問題がそれだけ深刻になったということだろう。

 それにしても『ドキュメント高校中退』で紹介されている底辺校生徒の学力実態は、ちょっと信じられないレベルだ。「『五五の次はいくつ?』と聞いても、一〇%の生徒はできない」「一円玉、五円玉、一〇円玉をいくつか出して、『全部でいくらになる?』と聞いてもわからない生徒もいる」。九九を満足に出来ない生徒も多く、特に七の段は怪しいという。

 親の経済状態と学力に相関関係があると言っても、いくら何でもという気がする。今の日本の義務教育は、貧困家庭の子供には満足に九九を教えることもできないのだろうか。同書には「LD(学習障害)を放置されて入学してきた生徒も少なくないのでは」という教師の談話も紹介されているが、これが事実ならば、なおさら義務教育が壊れかかっているのは間違いないという気がする。
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