九州はひとつひとつ

ダイエー

 私が小学生ぐらいの時分の話である。「私の彼は何とか」と歌っていた某女性アイドル歌手がいた。中高年と言われる年齢になった現在もなお、振袖姿で踊っていらっしゃる、あの方だ。彼女が人気絶頂の時、福岡市でサイン会を行ったことがあった。私は別のアイドル歌手のファンだったので何の関心もなかったが、わざわざ出かけたお調子者が翌日、サイン会の模様を憤然とした様子でクラス中に触れまわっていた。

 何でもサイン会開始のずいぶん前から大勢のファンが集まり、アイドル某が姿を現した途端、全員が歓声を上げて殺到、会場は大混乱になったらしい。アイドル某はこの時、露骨に嫌な顔をし、聞えよがしに吐き捨てたのだという。「これだから福岡の人間は」。

 お調子者氏は到底アイドルとは思えない態度を間近にして、すっかり彼女が嫌いになったと語った。そして話の最後に、(きっとアイドル某に負けないぐらい)不機嫌極まる顔で吐き捨てた。「自分は○○の人間のくせに」。

 ○○には九州内の別の県名が入る。なぜ、今さらこんな古い話を持ち出したかというと、このサイン会の会場が確かショッパーズ福岡というダイエーの商業ビル=写真=だったからだ。ここの専門店街が今年7月いっぱいで閉店すると聞き、なぜか真っ先にこの話を思い出した。福岡の人間は「熱しやすく冷めやすい」と評されるが、異常に郷土愛が強く、地元を馬鹿にされた恨みは決して忘れない。このアイドル某事件は、私のような中高年世代の間では相当広範囲に伝わっている。江川卓(巨人にいたあの江川卓である)とともに彼女は大嫌いだという人間は、私の知る限りではかなり多い。

 この話の結論は、アイドル某や福岡の人間は性格が悪いという話ではない。九州人は出身県が違えば極めて仲が悪いということである。政治家などは「九州はひとつ」などと九州の結束力をアピールしたがるが、アピールしなければならないのだから、まったくの嘘っぱちである。正解は「九州はひとつひとつ」である。例外は高校野球ぐらいで、この時ばかりは地元の代表校が負ければ、なぜか九州の他県の高校を応援したくなる。
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