2012/03/02
飯塚事件、再審の扉開くか
飯塚事件の再審請求を巡り、久間三千年・元死刑囚(死亡時70歳)の有罪の証拠の一つとなったDNA鑑定の資料を福岡地裁(写真)が検証するとの報道があった。飯塚事件とは1992年、福岡県飯塚市で小学1年生の女児2人が殺害された事件だ。事件から約2年半後、久間元死刑囚が逮捕され、本人は一貫して容疑を否認したものの、DNA鑑定をはじめとする状況証拠の積み重ねで有罪とされ、2008年10月、死刑執行された。
DNA鑑定は、鑑定の誤りが明らかとなり再審無罪となった足利事件と同じ方式だ。現在となっては精度の低さが指摘され、「冤罪論」の有力な論拠となっている。ただ、DNA鑑定がほぼ唯一の物証だった足利事件とは異なり、被害者の洋服に付着していた繊維片が元死刑囚の車のシートと一致▽元死刑囚の車のシートに残された血痕が被害者の血液型と一致▽同じく尿痕は被害者の失禁によるものと考えられる――等々の状況証拠が他にもある。
最高裁は06年9月の上告審判決の中で「これらの情況事実は、各々独立した証拠によって認められるものであり、かつ犯人を一定の者に限定し得るものであって、それぞれが、被告人が犯人であることを強く推認させ、又は犯人たり得ることを示すものといえる」「被告人が犯人であることについては合理的疑いを超えた高度の蓋然性がある」と述べており、弁護団自ら認めるように「再審開始への道のりはまだまだ遠い」と言えるだろう。ただ、仮に再審が認められ、万が一にも久間元死刑囚に無罪判決が下されるようならば、死刑制度の根幹が揺らぐのは間違いない。
事件の主な出来事を下に時系列でまとめてみたが、事件の本筋とは直接関係ない88年に起きた別の女児行方不明事件、そして飯塚事件の捜査が難航している時に起きた久間元死刑囚による捜査一課刑事暴行が少し気になった。88年事件の際にも久間元死刑囚の関与が疑われたとされるが、何の物証もなく、事件は現在も未解決のままとなっている。2女児殺害事件で、再び疑いの目が元死刑囚に向けられ、その中で刑事暴行事件が起きた。
当時の報道では、女児殺害事件捜査班の刑事2人が私服で通学路の安全確保のため警戒に当たっていたところ、元死刑囚が植木バサミで切りつけてきたというが、私服刑事が通学路を警戒していたなど容易には信じられない。露骨な張り込みに元死刑囚が耐え切れなくなったということではないか。ずいぶん強引な方法で別件逮捕に及んだものだなという感想を当時持ったことを覚えている。
下にも記したが、その刑事の1人が翌年自殺している。年齢は30歳を超えたばかりだったようだ。警察の身内意識の強さはよく指摘されるところで、自殺の理由は私にはわからないが、若い刑事の死が事件捜査の強力な推進力になったのは間違いないと思う。現実に自殺の半年後に久間元死刑囚は逮捕されている。この流れをどう評価するかは立場によって違うだろうが、元死刑囚自身は刑事の自殺に対する「報復」(死刑廃止団体フォーラム90に宛てた書簡)と考えていたようだ。私自身は必ずしも冤罪論に与しているわけではないが、刑事暴行事件は案外重要なファクターではないかと思ったので取り上げてみた。
- 88.12.04 潤野小の女子児童が行方不明に。現在に至るも消息不明。
- 92.02.20 潤野小の1年生女児2人が登校途中に行方不明に。
- 92.02.21 2人の女児の自宅から20km離れた甘木市(現在の朝倉市)の山中で遺体発見。福岡県警が殺人・死体遺棄事件として捜査を始める。
- 93.09.29 久間元死刑囚が県警捜査一課の捜査員2人に植木バサミで切りつけ、軽傷を負わせる。捜査員のうち1人は94年3月に自殺。
- 94.09.23 福岡県警が久間元死刑囚を死体遺棄容疑で逮捕。その後、殺人容疑でも再逮捕される。
- 99.09.29 福岡地裁が久間元死刑囚に死刑判決。
- 01.10.10 2審・福岡高裁も死刑判決。
- 06.09.08 最高裁が久間元死刑囚側の上告を棄却。
- 08.10.28 死刑執行。
- 09.10.28 久間元死刑囚の妻が再審請求。
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コメント
飯塚事件 冤罪
その時のことを思い出すと、悔しさがこみあげてきます。
久間氏への執行については、その日の夕方、ラジオニュースで知りました。
麻生さんが総理大臣になって日が浅く、”飯塚なのに何故?”というのが第一に浮かびました。
それから気になり、インターネットなどで調べているうちに、麻生内閣の法務大臣(森法務大臣)が法務省刑事局からの起案書に軽率もしくは故意に決裁し、命令書を発行したという推定の説がありました。
DNA鑑定の精度が問題視されていた時期に、執行命令したことに憤りを感じております。
Re: 飯塚事件 冤罪
私自身はブログにも書きましたように、判断材料が最高裁の判決文しかなく、必ずしも冤罪論に立っているわけではありませんが、久間元死刑囚の逮捕から死刑執行に至る流れには何か強引なものを感じており、ブログで取り上げた次第です。
遺族による冤罪請求が簡単に認められる状況にはないと思いますが、その行方を注視したいと思います。