1966年、福岡家裁での凶行

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 家庭裁判所というのは家庭内の争いごとを調停したり、少年事件を審理したりする場所だというが、幸いにしてここにお世話になったことはない。福岡の家庭裁判所は、地裁・高裁から少し離れた目抜き通り沿いにあるが、ここで1966年(昭和41年)、2人の女性が殺害される事件が起きている。離婚による慰謝料の話し合いのため家裁を訪れていた男が、元妻と妻の姉の二人を登山ナイフで刺殺したのだ。男は、福岡で“御三家”と呼ばれる県立名門高校の英語教諭で、当時53歳。当時の記事に書かれていた犯行動機が信じ難い。「年も取って再婚ができず、また家政婦もおく余裕もなく苦労しているのに慰謝料を請求され、腹が立った」。

 事件が起きたのは1966年1月26日午後3時ごろ。家裁内の相談者控え室で、慰謝料の調停に来ていた男が登山ナイフでいきなり元妻を襲い、さらに凶行を止めようとした妻の姉にも刃を向けた。騒ぎで駆けつけた裁判所書記官に取り押さえられたが、二人の女性は救急車で近くの国立病院(当時は福岡城内に国立福岡中央病院があった)に搬送されたものの、出血多量で間もなく死亡した。

 男と元妻は事件の2年前、結婚相談所を通じて知り合い結婚したが、男の暴力で結婚生活は2年足らずで破綻。凶行の約20日前に正式な離婚が成立したばかりだったという。驚いたのは、この結婚が男にとって5度目の結婚だったことだ。記事に添えられた顔写真を見る限り、容姿は普通の中年男(かなり額は後退し、黒縁眼鏡)だ。しかも家庭内暴力の性癖がある。そんな男が5度も結婚できたとは不思議だが、私の子供時代を振り返れば、教師という職業はエリートだった。少なくとも教師本人とその家族はそう信じていた。今でも勘違いしている傲慢な輩が結構いるが、少なくとも安定した職業であるのは間違いないだろう。そこが女性の信頼を得たのだろうか。

 記事に書かれた動機は信じられないほど身勝手極まるが、こんな動機を述べること自体、男は犯行時、精神に異常を来たしていたようだ。検察側は無期懲役を求刑したが、福岡地裁はあらかじめ登山ナイフを持ち込むなど計画的犯行だったことは認めたものの「当時は精神分裂病質的で、心神耗弱傾向だった」として懲役13年の判決を下した。2人の命を奪いながら、たった13年。心神耗弱とは都合の良い言葉だ。写真は現在の福岡家裁。この事件から9年後の1975年(昭和50年)に建て替えられたというから、事件現場はもう残っていない。
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