連れ子殺しと「3時のあなた」

 宮崎市で1976年10月に起きた幼稚園児殺害事件は、この街に住んでいた人にとって今も記憶に残る事件らしい。20歳代後半の母親が、夫の連れ子の5歳女児を熱湯に入れ殺害したというもので、当時「釜ゆで事件」とも報道されている。冷酷な犯行もさることながら、犯行が明らかになるまでの母親の行動が、事件の印象をより強烈なものにしている。遺体を自宅床下に隠した後「娘が行方不明になった」と騒ぎ、ワイドショーに夫とともに出演、「娘を捜して」と視聴者に訴えることまでしていたためだ。

 当時の新聞記事等によると、事件が起きたのは夫の出張中のことだ。5歳女児と1歳下の弟を一緒に風呂に入れていたところ、2人がけんかを始めた。怒った母親は女児を裸のまま屋外に出したが、それでも収まらなかったのか、弟が寝静まった後、女児を再び風呂に入れガスを点火した。数十分後に引き上げたが、女児は全身に火傷を負っており、間もなく死亡したという。姉弟で扱いに差があり過ぎ、弟の方は実子だろうと想像したが、2人とも夫の連れ子。自分に懐いた弟の方は可愛がっていたらしい。

 事件から2日後、夫が出張から帰る日になって母親は偽装工作を始める。「娘が遊びに出たまま帰らない」と言い出し、警察に届け出る。さらに夫の帰宅後は、大量のチラシを配布して情報提供を呼びかけ、全国系列のワイドショーだけでなく地元の番組にも夫婦で度々出演していたという。果たしてどんな心境でテレビカメラの前に立っていたのだろうか。

 夫婦が出たワイドショーとは、1968年から88年までフジテレビ系列で放送されていた『3時のあなた』だ。主婦向けの情報番組としては草分け的な存在だが、この事件が起きたころは他局の後追い番組と熾烈な視聴率競争を展開していたらしい。この中で起きた女児の行方不明事件。女児は夫の連れ子で、まして夫の出張中に行方不明になったとなれば、早くから母親には疑いの目が向けられていたに違いない。秋田連続児童殺害の母親と同じように、ワイドショーにとっては格好の獲物だったことだろう。

 犯行発覚後、母親は「テレビ出演の日は朝から髪をセットし厚化粧」などと報じられている。だが、母親をかばうわけではないが、スッピンで全国放送のテレビに出る20歳代の女性など当時も今も珍しい存在だろう。犯行自体は許し難いものだが、テレビ出演に関しては、娘を必死で捜す夫の心情に引きずられ、テレビ局側の罠にかかったという気がしないでもない。
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