福岡に昔パンダが来た


 殺人・遺体切断事件が起き、容疑者が女性であった場合、マスコミからは毎度毎度「女性1人で可能な犯行か?」という疑問が出される。だが、過去の事件を見れば、愚問であることがわかる。1994年に福岡で起きた美容師殺害、2006年に東京で起きたサラリーマン殺害…。どれも女性1人による犯行だ。1980年に福岡市南区で起きた事件も同様のケースだ。当時、20代後半の主婦が夫を殺害、遺体を隠すために切断したという事件。概要を新聞の縮刷版で調べてみたが、主婦が遺体切断に使ったのは古い出刃包丁1本。子供が寝静まった深夜などに作業を行い、3日掛かりで16の部位に切断したという。

 当時の記事によると、殺害された夫は普段から酒を飲むと暴力をふるったり、暴言を吐いたりしており、事件当日の1980年5月4日も酔って未明に帰宅し、主婦を罵って寝入ったという。2人の間には3人の幼児がいたが、主婦は「このままでは子供たちが不幸になる」と思い詰め、衝動的に寝ている夫を殺害したらしい。

 ここまではありがちな事件だが、犯行後の主婦の行動力は恐ろしいばかりだ。遺体切断はもちろんだが、これを隠すための冷蔵庫を買い求め、さらには「これからは自活しなければならない」と就職先を決め、子供たちを保育園に入れる手続きまで行っていたという。また、この修羅場の中、親子4人で福岡市動物園にパンダ<注>を見に行くことさえしている。夫殺害はゴールデンウィーク中の出来事。パンダを見に行くのは子供たちとの以前からの約束だったのだろうか。

 主婦は結局、遺体と暮らす恐ろしさに耐えきれなくなり、犯行から約1週間後、父親に付き添われて自首する。私が読んだ記事には夫婦の馴れ初めまで書かれていたが、二人が知り合ったのは事件の約10年前、主婦が都内の名門音大に入学するため上京中の列車内だったという。親切に荷物を持ってくれたのが後に夫となる男で、二人はそのまま都内で同棲生活を始め、大学はわずか2か月で中退している。だが、男は酒乱で仕事も長続きしないような人間だった。何度か別れを切り出したが、「どこまでも付きまとってやる」と脅され、やむなく男に従い各地を転々。そして、最悪の結末…。さして長くもない新聞記事だったが、一人の女性の半生を濃密なまでに見せられた気分だった。

 <注>事件が起きたちょうどこの年の3~6月、福岡市動物園には姉妹都市の中国・広州市から2頭のパンダが貸し出されていた。名前は「シャンシャン」と「パオリン」。上野動物園に当時いた2頭よりも年上で、「白と黒」と言うより「灰色と黒」に近いカラーリングだったが、立派な体格の堂々としたパンダだったと記憶している。パンダの帰国間際、私も友人たちと男ばかり十数人で見に行き、周囲の家族連れから奇異の目で見られた。
 写真のパンダは1996年に上野動物園で撮影した。当時上野にいたのはホァンホァンとトントンのはずだが、どちらだったかは覚えていない。
関連記事
スポンサーサイト
[Edit]