続・飯塚事件、再審の扉開くか

 今年3月「飯塚事件、再審の扉開くか」というタイトルで、2008年10月に死刑が執行された久間三千年・元死刑囚の遺族による再審請求について取り上げた。刑執行からまる4年、再審請求からはまる3年となる今月、再審弁護団が福岡市で記者会見し、有罪の証拠の一つなったDNA鑑定のネガを解析したところ、別人のDNA型が発見されたと発表した。さらに、鑑定書に添付されていた写真はこの部分が切り落とされており、弁護団は「証拠の捏造があった」と主張している。

 もともと久間元死刑囚には冤罪論も根強い。まして、パソコン遠隔操作による脅迫メール事件で、この国の警察・検察が無実の人間を平気で犯罪者に仕立て上げている実態が露になった時期だ。弁護団が落とした爆弾は大きな波紋を呼び、ネット上には再審決定を確実視する声もあふれている。

 各紙(朝日、毎日、読売)報道によると、検察側は「ネガ全体を裁判所に提出し、証拠採用されている。弁護側も見ているはずで、何を今さら」と反論。写真切り落とし問題については「久間元死刑囚のDNA型が良くわかるようにしただけ」と強弁しているようだが、詭弁に近いと思える。被告の無罪を証明するかもしれない部分を切り落としたのならば、それは間違いなく捏造、少なくとも証拠隠しではないのか。

 「飯塚事件、再審の扉開くか」の中でも書いたが、今となっては信頼性に欠けるDNA鑑定が唯一の物証だった足利事件とは異なり、飯塚事件の場合は▽被害者の洋服に付着していた繊維片が元死刑囚の車のシートと一致▽元死刑囚の車のシートに残された血痕が被害者の血液型と一致▽同じく尿痕は被害者の失禁によるものと考えられる――など他にも状況証拠は複数ある。1審に限れば、DNA鑑定は信用性に欠けるとまで指摘している。

 ひとつひとつは一人の人間を死刑台に送れるだけの証拠とは到底思えないが、最高裁はこれだけの状況証拠が積み重なれば「被告人が犯人であることについては合理的疑いを超えた高度の蓋然性がある」と判断した。しかし、仮に弁護側の主張が正しく、DNA鑑定結果に捏造、または誤りがあるのならば、決して強固とは思えない証拠構造は一部が崩れることになる。

 飯塚事件、及び菅家利和さんの冤罪事件として有名な足利事件で採用されたDNA鑑定は、MCT118型検査法と呼ばれる方法だ。科学警察研究所の研究者が発見したもので、16個の塩基からなる特定の並びが何回反復しているかによって個人を識別するものだという(反復回数は14~42回)。

 最新の鑑定法に比べて精度が低いため、菅家さんの冤罪が生まれたと私は理解していたが、足利事件を含む「北関東連続幼女誘拐殺人事件」を追い続けているジャーナリスト、清水潔さんのルポ等を読む限り、どうもそうではないらしい。菅家さんの再審裁判に際し、本田克也・筑波大教授(法医学)が改めてMCT118型検査法によって鑑定したところ、この手法でも菅家さんのDNA型は真犯人と一致しなかったという。つまり精度が低いから冤罪が生まれたのではなく、そもそも(故意がどうかは別にして)鑑定結果の判定自体が誤っていたというのだ。飯塚事件の再審弁護団の主張と同じ構図ということになる。

 MCT118型検査法は1989年から約7年間、500件以上の刑事事件の捜査で使われたと言われる。冤罪だった事件、あるいは関係者が冤罪を主張している事件は、足利、飯塚の2件だけなのだろうか。
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