よいこの社会科と鶏卵素麺


 博多銘菓「鶏卵素麺」で知られる松屋菓子舗が自己破産を申請したとの報道があった。鶏卵素麺とは安土桃山時代、ポルトガルから製法を伝えられたという歴史ある南蛮菓子だ。糸のように垂らした卵黄を熱い蜜の中にくぐらせて作るらしい。名前の通り、見た目は素麺そっくりで、強烈に甘い。私は大酒飲みのくせに、甘いものも大好きで、日本酒を飲みながら甘納豆をつまんだりできるのだが、そんな私でも鶏卵素麺はあまりの甘さにバクバクは食べられなかった。バクバク食べるものではないのだろうが。

 私が鶏卵素麺の名前を初めて知ったのは、小学校時代の社会科の副読本「よいこの社会科」でだった。この副読本は福岡の歴史や街の様子、産業、交通などを詳しく解説したローカル極まりない代物で、副読本と言いながら、授業は事実上「よいこの社会科」をもとに進められていた。1970年代ぐらいの福岡では、小学3、4年生は社会科の授業で、福岡市内を走っていた西鉄路面電車の路線名や鶏卵素麺、おきうとなどの博多名産品の名前を習っていたのだ。地域を深く知ることは、きっと良いことなのだろう。多分。

 それはともかく、素麺と名前が付いた菓子が当時はどうも想像できなかった。これは進物などとして使われる意外と高級な菓子で、主にお茶の席などで重宝されている。私が育った家庭の生活レベルでは目にする機会がなかったのだ。結局初めて口にしたのは社会人になってからではないだろうか。あまりご縁のあった菓子ではないが、歴史を踏まえれば文化遺産も同然の存在だけに、このまま消え去るのは福岡にとって社会的な損失だろう。何しろ「よいこの社会科」にも出ていたぐらいなのだ。

 ところで、鶏卵素麺と同じく、あまりの甘さにびっくりした菓子がもう一つある。長崎・平戸のカスドースだ。これもやはり安土桃山時代にポルトガルからもたらされたもので、作り方も良く似ている。カステラを卵黄でくるんだ後、やはり蜜の中をくぐらせ、最後にグラニュー糖をふるのだ。強烈な甘さは鶏卵素麺と甲乙付けがたいが、二者択一ならば多分カスドースに軍配を上げるだろう。単体でも十分甘いカステラをフレンチトーストにしたようなものだから。

 写真はシャッターを下ろした博多区上川端町の松屋菓子舗本店。
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