『ファビオラ』

20180218002.jpg

 昔、『ファビオラ』という小説を中学校の図書館で読み、感動した記憶がある。ローマ帝国ディオクレティアヌス、マクシミアヌス両帝時代の殉教者たちを描いた作品で、19世紀、初代ウェストミンター大司教のワイズマン枢機卿によって書かれた。高位の聖職者が作者なのだから全編がキリスト教的価値観で埋め尽くされ、非信者には少し辟易する部分もあるが、歴史小説として非常に優れ、登場人物も魅力に満ち溢れている。現在は絶版。二度と読む機会はないだろうと思っていたが、幸いにも福岡市総合図書館に所蔵されていた。数十年ぶりに読み返すことができたが、やはり面白い作品だった。

 図書館にあったのは1973年12月に中央出版社(キリスト教の書籍を発行している現・サンパウロ。CMが放映されている教材会社とは全くの別会社)から発行された改訂初版。この図書館の蔵書は鉛筆やボールペンで赤線が引いてあったり、コーヒーらしきもので汚されていたりで不愉快になることが度々あるのだが、40年前に出版されたこの本は非常にきれいな状態だった。現在は閉架書庫に収められ、希望しないと手に出来ないことが第一の理由だろうが、この本が書棚にあった昭和時代、図書館の本を大事にするという当然のモラルがまだあったのだろう。

 作品について簡単に紹介すると、題名のファビオラとはローマの貴族階級に属するヒロインの名前だ。他の登場人物は聖アグネス、聖セバスティアンらカトリックで聖人として崇められている実在したとされる人物たちで、ヒロインは聖アグネスの従姉と設定されている。ファビオラは正義感にあふれる若い女性だが、お嬢様育ちのため傲慢なところもあり、キリスト教とは野蛮な宗教だと軽侮している。彼女がアグネスらの殉教や奴隷娘シラ(ミリアム)の誠実さに触れ、次第に信仰に目覚めていくというのが極めてざっとした粗筋。ヒロインを除く登場人物の大半は次々に殉教していく。このあたりは好き嫌いの分かれるところではあるだろう。

 ワイズマン枢機卿は、イングランドでカトリックが復興した時代の人物で、「べた過ぎる」殉教物語は英国民を宗教的に啓蒙する意味合いもあったのだろうか。現在では「差別語」とされている言葉が満載され、現状のままでは再出版不可能だろう。何とか改訂版を出して欲しいものだ。
関連記事
スポンサーサイト
[Edit]