行旅死亡人


 数年前の春先、福岡市早良区百道浜(写真)を散歩中、砂浜に救急車が停まっているのに出会った。誰かが溺れたのかと思い目を向けると、波打ち際に人が倒れていた。救急隊員は周囲を取り巻いているだけ。一緒に歩いていた家族が不審がったので、「すでに亡くなっているのだろう。救急隊員は死者は運ばない」と説明したが、腑に落ちない様子だった。

 行旅死亡人データベースというサイトに、この人物らしき死亡者の情報が掲載されている。60~70歳の男性。2005年3月18日、百道浜で溺死。時期や場所が一致しているので、恐らく間違いないだろう。行旅死亡人とは身元がわからず、引受人もいない死者のことで、性別や年齢、遺体の発見日と場所、状況などは官報に掲載されている(インターネット版官報はこちら)。

 今年3月1日の官報には、昨年福岡市で火葬された7人の行旅死亡人が掲載されている。行旅死亡人が発見される度に官報に掲載する自治体もあるが、福岡市では1年分をまとめて告示しているようだ。恐らくこれも行革の一環なのだろう<注>。7人の死因は、溺死が3人、交通事故死、失血死、墜落死、原因不明の内因死が各1人。交通事故死は、昨年暮れに「今も身元不明」で取り上げた、ジョギング中に輪禍に遭った女性だ。文面を読んで少々不可解に感じたのは失血死、内因死のケースだが、以下のように書かれている(民間物件は住所・ビル名を伏せた)。

< 本籍・住所・氏名不明、20歳前後、男性、身長約170センチメートル、紺色半袖Tシャツ 、ジーンズ、焦げ茶色靴
 上記の者は、平成24年6月3日福岡市城南区鳥飼7丁目34番市営中浜団地34棟北側1階敷地で失血死体で発見された。>

< 本籍・住所・氏名不明、40~50歳代、男性、身長165~170センチメートル
 上記の者は、平成24年9月25日福岡市中央区渡辺通*丁目**番**号*ビル4階ベランダ物置内で原因不明の内因死体で発見された。>

 現場は失血死が完全な住宅地、内因死が大通りから一本入った路地で、1階に小料理屋やスナックが入居するアパートが立ち並んでいる。若者が失血死するなど犯罪絡みと思えるし、ベランダの物置で死んでいたというのも奇妙な話だ。図書館で新聞をめくり関係記事を探してみたが、どれも見つけることはできなかった。報道に値するだけの事件性はなかったということだろうか。

 「今も身元不明」でも同じようなことを書いたが、20歳前後の若者が命を落としたというのに身元がわからないという状況が不思議で仕方がない。行旅死亡人と言えば、何となく高齢者が多いものと思っていたが、確かに50歳以上の中高年齢者が多いものの、彼のような若者も決して珍しくはない。音信不通となった息子の行方を、親は今も必死で探しているのではないだろうか。それとも天涯孤独の若者が当たり前に存在している世の中なのだろうか。どちらにしても切ない。

 <注>官報の掲載料金は、地方自治体の告示等が1行(22字)当たり918円。行旅死亡人を個別ではなく、まとめて告示することで「当該行旅死亡人については、引取人がないため遺体は火葬に付し、遺骨は当市において保管中です。心当たりの方は、福岡市博多区保健福祉センター保護第3課まで申し出ください。平成**年*月*日 福岡県 福岡市長 高島宗一郎」という文章が一回切りの掲載で済むことになる。この一文が官報では6行、つまり5508円。7人の行旅死亡人をそれぞれに告示した場合、33048円を余計に支払わなければならなくなる。ただし、これはあくまでも私の推測で、一回一回告示するのが単に面倒くさいだけということもあり得る。
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