受験生が涙した「鳥寄せ」

旧聞に属する話2011-ユリカモメ3

 15日から大学入試センター試験が始まる。全国的に荒天が予想されており、受験生や保護者は心配なことだろう。ちょうど昨年の今頃、以下のような話を書いた。このブログを写真ブログに模様替えした際、カット写真がなかったので、削除していたのだが、季節柄か比較的アクセスが多かったようでもあり、再録させていただきたい(カット写真は近くの公園で撮影したユリカモメ)。

        ◇   ◇   ◇

 受験生だった時、共通一次試験の国語でえらく悲しい話が出題されたのを覚えている。農閑期には出稼ぎをしないと暮らしてゆけない、恐らくは東北地方の寒村が舞台の物語だ。女子受験生の中には、必死で涙をこらえながら問題を解いた人もいれば、泣き出してしまって試験にならなかった人もいたらしい。しばらくは大学生や受験生の間で“伝説”となっていた。

 大学入試センター試験の季節になると、この問題をふと思い出すことがある。受験生の頃の記憶など、他には何も残っていないのに。改めて読み返したくなり、当時の問題用紙のコピーを手に入れた。気になっていた出典は、冒頭に書いてあった。<次の文章は三浦哲郎の短編小説「鳥寄せ」の一節である。これを読んで、次の問い(問1~問6)に答えよ>

 三浦氏は青森県八戸市出身の作家で、1960年には「忍ぶ川」で芥川賞を受賞されている。問題文をそのまま掲載したいところだが、著作権にかかわると思うので、あらすじを紹介すると――。

 語り手の「おら」は、出稼ぎ先の東京から正月休みで帰郷する「父っちゃ」を、身重の「母っちゃ」に代って出迎えに行く。だが、バスから降りる乗客の中に父っちゃの姿がない。出稼ぎ仲間の村人に尋ねたところ、秋口には帰ったはずだという。おらは納得いかぬまま帰宅するが、夜になって村人が詳しい事情を話しに来てくれた。父っちゃは慣れない仕事にへまばかりしていて、「俺はやっぱり百姓だ」と言って夜逃げするように飯場を抜け出したのだった。

 父っちゃは翌年の秋、自宅の裏山で見つかる。白骨遺体となって。眼下に自宅の灯りが見える場所まで来ていながら、そこで首を吊っていたのだ。この時から母っちゃは、気が触れたように鳥寄せの笛を吹くようになる。父っちゃが鳥となって戻ってくるとばかりに。鼓笛隊の演奏中にも調子はずれの笛を吹いた母っちゃをおらは憎み、笛を隠す。しょんぼりした母っちゃはある日、近所から霞網を借りて深い裏山に分け入り、そのまま行方知れずとなる。そして、今度はおらが鳥寄せの笛を吹くのだった。

 共通一次試験の国語は200点満点。この文章題の配点は45点とある。冒頭の女子受験生の話は、大学入学後に複数の友人から似たようなエピソードを聞いた。涙をこらえた人と泣きだしてしまった人とで、もし受験の明暗が分かれたのなら、気の毒な話だ。
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コメント

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その小説は宗教の話だそうで

この作品、「鳥寄せ」は、現在はもう、絶版となっている、「木馬の騎手」という、短編集のひとつです。
入試問題では、第4節しか出題されておりません。しかしながら、第1節~第3節もまた、悲惨なお話です。
家族のように養っていた、豚3匹、そして牛(べご)も売り払い、それでも生計が成り立たず、父っちゃは、東京から来た、「赤ネクタイに、捕まった」というのが、あらすじです。
わたしも、この試験、受験しましたが、この問題によって、何か日本の国語の大学入試が、大きな転換をした、と、記憶しております。

No title

国家試験は受けたことがまだないけれど、これから京都大学に行くので文学の本「新現代文単語」という本を読み始めたらら、この話しが出て、非常に難しいと思いました〜

日本人がこれが難しいと思うなんて、自分だけではないとちょっと嬉しくなってきました〜^^