凶悪事件で家賃半額


 3年以上前に書いた古い記事だが、再録した。

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 長引く不況で、賃貸住宅の家賃が下がっているという。同じマンション内の同じような間取りの部屋であっても、古くから住んでいる入居者に比べ、新しい入居者の家賃がずいぶん安いという例も多いらしく、トラブルになることもあるとか。家賃相場は経済状況などに左右される部分が大きいとはいえ、家賃にあまりに格差があれば、高い方が不愉快なのは当たり前のことだろう。

 東京近郊の千葉県内の都市で分譲マンションを借りて住んでいた時、ちょっと信じられないような家賃格差に遭遇したことがある。こっちが安い方だったので、腹は立たなかったが、5000円、1万円程度の差ではない。あまりに特殊なので、まったく参考にはならないが、「こういう例もあるのだ」ということで紹介したい。

 いわゆるバブルの崩壊からしばらく後、東京に転勤することになった。バブル時に比べてずいぶん下落したとは言え、都内のファミリー向けマンションの家賃は20万円以上が相場だった。安月給のサラリーマンにとって、給料の大半を家賃に注ぎ込むことになり、到底生活などできない。不動産屋に「せめて半額程度の家賃で」と泣きついたところ、紹介されたのは千葉県の外れ、隣の駅は高校野球で有名な学校がある茨城県のまちだった。

 「いったいどこに転勤するんだよ」。自分の不甲斐なさを嘆いていたら、憐れんだ不動産屋が「本当はお薦めしたくないんですが…」と言いながら、別の物件を紹介してきた。3LDK、家賃は月12万円、しかも東京都心まで地下鉄1本で30分弱。「あまりにうますぎる!」と思ったら、不動産屋が「これは事前にお伝えすることになっていますので」と理由を語り出した。当時からして数年前、凶悪な殺人事件があり、家賃が相場より2割以上安いのだという。ただし、大規模高層マンションであるため、紹介された部屋と事件現場とはずいぶん離れている。家族は「気味が悪い」と不満そうだったが、「永住する訳ではないんだから」と押し切り、契約した。

 後日、その凶悪事件とやらを調べてみると、九州の人間でも聞いたことがあるような有名な事件だった。相当数の被害者が出ている。事件名を記すと、現場のマンション名が今でも一発で特定されるので、ここでは控える。住んでみると、生活環境は意外に便利で、超有名なテーマパークにも近所の公園感覚で出かけられる地の利もある。反対していた家族もそれなりに満足していたが、遊びに来た友人たちは「なんか空気が重いね」と語っていたという。

 入居してしばらく後、家族が、仲良くなった近所の奥さんと世間話をするうち、「ここは家賃が高くて、大変よね」という話になったらしい。こっちは家賃など10万円以上払ったことがない九州の田舎者。12万円でも確かに高いと思っていたので、家族は相づちを打っていたところ、家賃額を聞かれたので、正直に12万円と答えた。それを聞いた途端、奥さんの顔色がみるみる蒼白になるのがわかったという。その奥さんが「うちの家賃は…」と絞り出すように語った額は、なんと我が家の2倍、24万円だった。

 奥さんの一家が入居したのは、ちょうどバブルの時代で、このころ24万円という家賃は相場だったらしい。ところが、バブルがはじけて大幅に下落し、さらに事件の発生が追い打ちをかけた。だから、同じマンションに住んでいても家賃が12万円も違うという事態が生じてしまったようだ。奥さんの一家は、本当に数日後、引っ越していった。写真は、問題の事件の犯人(確定死刑囚)が収監されている東京拘置所。
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