続々・陸軍が掘ったペグマタイト

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 福岡市西区の長垂山で戦前から戦中にかけ、陸軍がペグマタイト(大きな結晶からなる火成岩)を採掘していた話を以前取り上げたことがある(「陸軍が掘ったペグマタイト」「続・陸軍が掘ったペグマタイト」)。陸軍が欲しがったのはペグマタイト中のリシア雲母に含まれるリチウムだが、その使途がわからない。何とか突き止められないかと思っていたところ、神戸大学附属図書館デジタルアーカイブの新聞記事文庫で興味深い記事を見つけた。
  
 1934年(昭和9年)7月15日の大阪朝日新聞記事で、朝鮮半島の忠清北道の農民が偶然、希少な鉱石を掘り出したというものだ。農民から届け出を受けた朝鮮総督府鉱山課が地質調査所に鑑定を依頼したところ、優秀なリシア雲母であることがわかったという。記事は「リシウムは軽金属中最も軽いもので飛行機その他軍需工業の合金材料として非常に重宝視され世界各国とも血眼になって捜しているものであるが、これまでアメリカとスペインで極く少量を発見したのみで、わが国では嘗て筑前長垂において標本程度のものを発見したくらいにとどまり今回のものは全く世界的の大発見といわれている」と報じている。

 この記事によると、リチウムは当時、飛行機などの軍事用合金材料として各国が重要視しながらも、産出量は世界的にも極めて少なかったことがわかる。「陸軍が掘ったペグマタイト」の中で、航空機用のアルミリチウム合金製造のため、陸軍はリチウムを欲しがったという地元研究者の説を紹介した。あくまでも状況証拠でしかないが、この記事を読む限りでは、合金説がやはり正解かもしれないと思う。

 神戸大学附属図書館の新聞記事文庫には、このほかにもリチウムに関する戦前の記事がいくつか収録されている。翌年1935年2月3日の大阪時事新報記事は「リシウム四%のチンワルド 軍需工業界に歓呼」との見出しで、忠清北道からまたもやリチウムを含む希少鉱石チンワルド(リチウムのほかに鉄を含有する雲母)が発見されたことを伝えている。さらに同年8月8日の中外商業新報記事は、日本電工が半島産のリシア雲母等を原料にリチウム国産化の研究を進めることを報じ、「軍事的にも、一般工業的にも多大の反響を呼ぶものと見られ今後の成行は誠に刮目に価しよう」と結んでいる。忠清北道で発見されたリシア雲母、チンワルド雲母が相次いで採掘され、国内で軍事利用されようとしたのは間違いないだろう。

 1934年7月15日の大阪朝日新聞記事からはもう一つ、長垂山のリシア雲母は当時、標本程度しか産出していなかったことがわかる。長垂山山中でリシア雲母を含む有望なペグマタイト鉱床が見つかり、陸軍が本格的な採掘を始めるのは6年後の1940年。1934年段階で長垂山のペグマタイトは天然記念物に指定され、保存が図られていたのだが、泣く子と陸軍には勝てない。

 「陸軍が掘ったペグマタイト」で書いたが、陸軍が手にしたとみられるリチウムは計4㌧程度だったと想像される。仮に合金説が正しいとして、果たして軍部や軍需産業は長垂山や半島産のリチウムを使って合金の製造に成功し、何らかの兵器に利用したのだろうか。アルミリチウム合金に限れば、扱いの難しさ等から1950年代には研究は下火になり、再び注目されるようになったのは70年代に入ってからだという(航空機国際共同開発促進基金の解説記事
『航空機に於けるアルミリチウム合金の開発動向』2005)。確証はないが、合金は実用化に至らなかった気がする。
 
 写真は長垂山の下の海岸に突き出たペグマタイトの岩脈。
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