謎の言葉「モンチ」

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 昭和40年代、私が小学校に上がった頃の話だ。九州山地に囲まれた田舎町から福岡都市圏に出てきたのだが、一番戸惑ったのは言葉だった。私も方言を話していたのだから偉そうなことは言えないが、博多弁(あるいは福岡弁)には意味不明の言葉が少なくない。同世代の子供たちが何を言っているのか、さっぱり理解できないことも多かった。

 特にわからなかったのが「モンチ」と「ココトットート」だ。2番目は鶏の鳴き真似ではない。例えば、公園でブランコに乗ろうとしたら、いきなり「モンチ、モーンチ!」と騒ぎ出す者が必ず現れ、わけわからずに無視して遊んでいたら今度は「コケコッコー!」(正確には「ココトットートと言ったろうが」)と喚きながらケンカを吹っかけてくるのである。とにかく参った。福岡人は鳴き声も行動も雄鶏に似ていると思ったものだ。

 この意味不明な2語はどちらも自らの所有権を高らかに宣言する、いかにも福岡らしい言葉で、モンチは「俺のものだ」、ココトットートは「この場所は取っている」ぐらいの意味だ。ココトットートはひょうきんな感じが気に入り、そのうち私も使うようになったが、モンチの方には馴染めなかった。言葉の響きが何となく不快だし、なぜこの言葉が「俺のものだ」になるのか意味不明なことも気色悪かった。ただ、私が嫌ったからではないだろうが、そのうち耳にすることがなくなった。

 私が小学生時代に住んでいたのは、1~2年生の頃が現在の筑紫野市、3~4年生の頃が福岡市博多区、5~6年生が大野城市。モンチを使っていたのは筑紫野市、博多区の子供たちで、大野城市では聞いた記憶がない。しかし、地域的には大野城市は博多区南部と隣接しており、ここだけ言葉が違ったとは考えられない。高学年になると使うのが恥ずかしくなる、いわゆる“幼児語”みたいなものだったのだろうか。

 語源を調べてみようと、図書館にあった『博多ことば』(江頭光、海鳥社、2011)、『博多方言』(松井喜久雄、1997)、『福岡県のことば』(平山輝男他、明治書院、1997)などの本をめくってみたのだが、モンチに関する記載は幼児語の項目を含め一切なかった。どうも真っ当な博多弁ではなかったようである。「チカッパ」などと同様、歴史の浅いローカルな流行り言葉だったのだろう。まったくの想像だが、「俺のもんち言っとろうが」(俺のものだと言っているだろう)などの言葉の省略形だったのかもしれない。

 福岡で育った20歳代の若者数人に「モンチという言葉を知っているか」と尋ねたところ、誰もが聞いたこともないと答えた。現在では死語のようだ。よそから福岡に引っ越して来た子供たちが、この意味不明な言葉で悩まされることはもうないだろう。
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No title

はじめまして。ちょっと前から愛読させていただいてます。気に入ると勝手にFBでシェアとかしてしまいますが、お許しください~。元福岡人なんで、毎回アップされるの本当に期待してます♪

Re: No title

こんな変なブログに訪問いただき、ありがとうございました。また、お褒めの言葉をいただき、うれしい限りです。今後もよろしくお願いいたします。