水泥棒で渇水なし


 福岡市の隣町、春日市と那珂川町に水道水を供給している「春日那珂川水道企業団」が約40年間、無許可で那珂川(写真は河口付近)の水を取り続けてきたことが今年明るみに出た。川の水を井戸に取り込み、あたかも地下水を取水しているように見せ掛ける、かなり悪質な手口。福岡県からは「違法行為は即刻やめろ」と命じられたが、そうなると1日当たり約11,000立方㍍の水(約44,200人分)が不足する。結局、福岡市が水利権を持つ那珂川の水の一部を4年間を限度に融通することになった。

 あまり関心のない話だったが、公営企業が40年にわたって水泥棒を続けてきたなど前代未聞だ。水を融通する側の福岡市は1978、1994年と2回も大渇水を経験し、ダム建設や海水淡水化などの水源開発、節水対策などに膨大な予算を投じてきた。2015年度予算でも163億円あまりが渇水対策用の五ヶ山ダム建設をはじめとするハード面の整備費に充てられている。これをよそに、春日市、那珂川町は「豊富な地下水で渇水とは無縁」と胸を張り、那珂川町に至っては市制施行を目指して人口増に走ってきた。しかし、給水人口(15万人)の約3分の1は盗んだ水で賄ってきたわけだ。

 企業団がウェブサイト上で公表している「お詫び」には、「春日那珂川水道企業団は、昭和52年の設立以降、春日市と那珂川町の水道水の安定的な供給に努めてまいりましたが、当時の予想を上回る急激な人口増加に水源の手当てが追いつかず、許可を得ずに河川からの取水を行ってきました」とあり、明らかな確信犯である。

 福岡市側は21日、春日市、那珂川町救済策を市議会に提示し、議会側も最終的には「住民に責任はないのだから」と人道面から了承したというが、反発は相当のものだったらしい。これで福岡市よりも春日市、那珂川町の方が水道料金が仮に安かったら、市民感情を配慮し、議会もたった1日限りの審議では「ウン」とは言えなかっただろうと思う。幸いと言うべきか、水道料金のバカ高さで有名な福岡市よりも、春日市、那珂川町はさらに高いのだ。

 2014年度版の『福岡市水道事業年報』によると、市民が1人が1日に家庭で使う水道水は198㍑。この数字をもとにすると、4人家族の2ヶ月の水道使用量は約48立方㍍となり、上下水道料金は14,479円となる。同条件で試算した場合、春日市は17,144円、那珂川町は17,494円と、福岡市よりも約3,000円高い。水源開発に本来必要だったはずの金を使わず、違法取水でしのいできたのにこれは不思議だ。「渇水の心配がないことへの保険だから」と納得して高い水道料金を支払ってきた両市町の住民にしてもだまされた気分だろう。今後、まともに水源開発を進めていけば、さらに水道料金に跳ね返る恐れさえあるのではないか。

 1994年の福岡大渇水の際、非常に印象的な出来事があった。1日の半分、12時間の給水制限が続く中で福岡市長選が告示されたが、選挙期間中、水事情が好転したわけでもないのに突然、給水制限時間が8時間に短縮されたのだ。オール与党の現職対共産党系新人の一騎打ち。現職が負けるはずのない選挙だったが、それでも水問題で市民の反発を浴びるのが恐ろしかったのだろう。万が一、福岡都市圏で三度大渇水が起きれば、福岡市長は真っ先に春日市、那珂川町への救済策を打ち切ることと思う。春日市、那珂川町の住民よりも、自分の選挙で1票を握る福岡市民の反発が何より怖いだろうから。

 福岡市の救済策決定を受けて、企業団を構成する春日市、那珂川町の行政サイドからは公式には何の反応もない。水泥棒については罪悪感さえ持っておらず、だから感謝の念を表明するという当たり前の行為さえできないのだろう。危機感も責任感もない行政だ。
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