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川南造船所、全面撤去へ

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 佐賀県伊万里市に残る軍需工場・川南造船所の廃虚(写真、昨年11月撮影)が、やはり完全に取り壊されることになった。市が設けた跡地整備の検討委員会(5人)で、完全解体か一部保存かの議論が続いていたが、各紙報道によると、23日の会合で、地元側の意向を尊重して全面撤去の結論を出したという。年内にもすべて取り壊されるらしいが、せめて映像資料を含め、万全の記録保存を図ってほしいと思う。

 このブログでも過去2度、川南造船所跡の解体問題を取り上げてきた(「川南造船所跡」「緑の廃墟・川南造船所跡2」)。個人的には何とか残してほしいという気持ちがあったが、一刻も早い撤去が地元の総意ならば、仕方がない。廃虚のまま半世紀以上も放置し、住民感情を硬化させた過去の行政の無策こそ責められるべきだろう。

 造船所で具体的に何が製造されていたのかさえ、最初は行政側も把握していなかった節がある。「人間魚雷を造っていた」との証言により、「回天」と考えられていたが、同じ「人間魚雷」の異名を持つ特攻兵器ながら、実際は特殊潜航艇「海龍」だったことが先の委員会の場で立証された。もっと早い段階できちんとした学術調査が行われていれば、廃虚ではなく、貴重な戦争遺産として評価され、地元の認識も変わっていたかもしれない。惜しい気がする。

 旧直方駅舎、川南造船所跡と2回続けて保存か解体かで揺れる建物を取り上げた。大きな情勢変化がない限り、恐らく旧直方駅舎も取り壊される運命だと思うが、直方市は旧駅舎の学術調査を行うことさえ拒否している。これに対し、伊万里市は検討委員会で議論を深め、保存を求めてきた学識者らを、最後は渋々ながらも納得させた。この違いは大きいし、伊万里市のプロセスは評価されるべきだと思う。
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