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生き延びた社民党と『特捜最前線』

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 『特捜最前線』という刑事ドラマが1970~80年代、テレビ朝日系列で放送されていた。登場人物の一人、紅林刑事を演じていた俳優は横光克彦さんで、この人は後に故郷の大分で衆院議員となり、社民党時代は副党首、民主党に移ってからは環境副大臣などを務めていた。横光さんが初当選したのは1993年7月の総選挙だが、これに絡んで昔、面白い噂話を聞いたことがある。

 旧大分2区(定数2)に社会党(当時)推薦で立候補した横光さんだが、閣僚経験者でもある自民党の田原隆、同党のホープと目されながら新党さきがけ結成に加わった岩屋毅という二人のライバルは手強く、劣勢とみられていたという。ところが、蓋を開けてみれば、横光さんが堂々のトップ当選。マスコミの情勢分析にはまったく加味されていなかったが、実は選挙前に『特捜最前線』がたまたま大分で再放送されており、主婦層や高齢層を中心に紅林人気が再燃していたというのだ。

 『特捜最前線』は以前、福岡でも度々再放送されていた。だから、この噂話を人から聞いた時は「あり得る話」と信じ込み、他人に広めたこともある。しかし、今回の総選挙を機会に、改めてこの噂話を検証するため当時のテレビ番組表を確認したところ、どうやらデマだったらしいとの結論に達した。

 1993年の選挙当時、大分県内にあった民放はTBS系のOBSと、日テレ・フジテレを中心としたクロスネットのTOSの2局。テレ朝系のOABが新たに開局し放送を始めたのは選挙後の10月のことだ。『特捜最前線』の本放送はTOSでやっていたというので、主にこの局の番組表をチェックしてみたのだが、『特捜最前線』が見当たらなかっただけでなく、ドラマの再放送自体が極めて少なかった。恐らく日テレ・フジテレ2局分の番組を盛り込まざるを得ない分、午後からは再放送ドラマのオンパレードというわけにはいかなかったのだろう。

 ただ、ついでにチェックした福岡のKBC(テレ朝系列)の番組表で、1993年春頃まで『特捜最前線』が夕方に再放送されていたのを確認できた(写真、1993年3月31日の番組表。ニュース番組欄を見ると、福岡ドームの完工日だったことがわかる)。聞くところによると、旧大分2区に含まれていた福岡県境の大分県北部では福岡のテレビ放送が視聴可能らしい。噂話が生まれた裏には、ひょっとしたらKBCでの再放送が関係していたのかもしれない。

 話は変わるが、大分というところは恐らく、教組をはじめとする官公労が強い土地柄で、これに村山富市・元首相の存在が加わり、他県では壊滅した社民党の地方組織が生き残ったのだろう。今回総選挙でも社民党は大分で約69,000票の比例票を集めたが、これは比例九州ブロックでは沖縄の約81,000票に次ぐ数字だ。

 全国的に社民党の得票率はせいぜい数%なのに、大分では13.1%、沖縄では14.7%。沖縄2区で照屋寛徳氏が当選したほか、事実上この2県のお陰で比例でも1議席を獲得し、同党は政党要件である衆参5議席を辛うじて守ることができた。大分、沖縄の票がなければ、前回選挙で消滅していたことだろう。

 横光さんは後に民主党に移ったこともあって、社民党関係者からは裏切り者扱いされたとも聞くが、村山さん程の存在感はなかったにしても、大分社民を一時期支えた人物であったのには違いない。彼が政界にいる間、選挙を利することになり兼ねない『特捜最前線』再放送は、大分では難しかったのではないだろうか。
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