旧聞since2009

プリンス・ウィレム焼失

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 今年7月、懐かしい船の悲報がオランダから伝えられた。プリンス・ウィレム号の複製が、同国北部の町で、不慮の火災により焼失したというのだ。大ニュースというわけではないが、今年起きた出来事の中では、個人的には印象深いものだった。

 プリンス・ウィレムとは、17世紀にオランダ・東インド会社で貿易船として活躍した帆船だ。全長約73㍍、約2,000㌧の大きさで、当時としては最大級の帆船だったという。この船の忠実な複製が1985年、オランダで建造され、ハウステンボスの前身の長崎オランダ村(長崎県西海市)にやってきた。優美な姿は、オランダ村のシンボルとして長く人気を集めていた。

 オランダ村の末期の2001年、係留されていたこの帆船内を見学したことがある。写真はこの時に撮影したものだ。17世紀には最大級だったとはいえ、サイズにしても居住空間の快適さにしても、何度か乗ったことがある瀬戸内航路のフェリー以下に思えた。これでオランダからインドネシアまで航海していたのだから、当時の海の男たちの勇気と苦労は並大抵のものではなかっただろう。

 このプリンス・ウィレムがオランダ村を離れ、古里オランダに戻ったのは2003年10月のこと。ハウステンボスの経営破綻で、債務返済のため1億3000万円で売却されたのだった。関係者に見送られ、静かに出航する姿をテレビ報道で見たが、九州の誇るテーマパーク、オランダ村、ハウステンボスの落日を見るようで、非常な寂しさを感じたのを覚えている。

 火災の原因は、電気系統のショートだったという。オランダでの第二の生活は6年弱に過ぎなかったが、母国でも日本と同様に人気を集め、観光客誘致に一役買っていた、と報道されていた。

 本物のプリンス・ウィレムは1651年に処女航海を行い、62年には嵐のため一生を終えた。オランダ村のシンボルだった複製も、本物より長いとはいえ、24年の短い生涯だったが、日本だけでなく故国オランダでも人々に愛されていたと知り、救われる思いだった。
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