2019/03/06
格納庫だったワインセラーで竹灯籠を見た
八女市立花町の谷川梅園で開かれていた「竹あかり幻想の世界」に最終日の3日行き、トンネル内を竹灯籠で彩るという珍しい催しを楽しんできた。普段はワインの貯蔵庫として活用されている長さ112㍍(枝道を含めた総延長は約180㍍)、幅4㍍、高さ4㍍のトンネル内は精緻な模様を施した3,000本もの竹灯籠で彩られ、さらにロウソクの熱で温められて非常に快適な空間となっていた。
ワイン貯蔵庫のトンネルは丘陵地帯の山肌に掘られている。現地のスタッフに尋ねたところ、元々は戦時中に格納庫として掘られたトンネルで、年間を通して温度がほぼ一定の環境がワインを保管するのに最適だったことから、1995年から地元のワイナリーが貯蔵庫として活用しているという。しかし、このトンネルには戦時中、いったい何が保管されていたのだろうか。格納庫という言葉からは飛行機が思い浮かぶが、一帯の地形やトンネル幅が4㍍しかないことを考えれば、その可能性はないだろうと思う。帰宅後にネット検索してみたが、現地で聞いた以上の情報は全くなく、いつ、誰が掘削したのかさえわからなかった。
後日、市町村合併で新・八女市となる前に編まれた『立花町史』(1996)を図書館でめくってみた。観光地の一つとしてワイン貯蔵庫が紹介されていたが、既知の情報に加えてトンネルの規模が若干詳しく記されていただけで、知りたい情報は何も書かれていなかった。ただし、「なお、壁には『トンネルの歴史』というパネルが掲げてあります」という一文が…。なんとトンネルの来歴はトンネル内に掲示されていたわけだ。竹灯籠はじっくり見たものの、パネルには全く気付かなかった。気付かなかった私が悪いが、せっかく地元の歴史を紹介する町史なのだから、パネルに書かれた情報程度は盛り込んでくれても良かったと思うが。
仕方がないので、旧・八女市の市史なども当たってみた。こちらにも欲しい情報はなかったが、現在では結構有名になった「幻の八女遷都」について詳しく紹介されていたので、興味深く読ませてもらった。
八女遷都とは、太平洋戦争中の1943年10月、内閣直属の機関・企画院によってまとめられた『中央計画素案』に記されていた極秘プランだ。大東亜共栄圏建設の大事業を完遂するためには首都移転が必要だとして、候補地として挙げられた3か所の中に当時の福岡県八女郡福島町(現・八女市)が含まれていた。残る2か所は、岡山県邑久郡行幸村(現・瀬戸内市)と京城(現・ソウル)。戦後、立花町在住の男性が素案を掘り起こし、この男性に取材した西日本新聞が1977年10月6日の夕刊で「大戦中、大まじめに検討された八女遷都論」との見出しで大々的に報じた。地元住民は郷土の知られざる歴史にびっくり仰天したという。まさに「秘史」と呼ぶべきだろう。
トンネルの歴史は秘史でも何でもないはずだが、私の手際が悪いこともあってこのブログで紹介することはできなかった。来春も谷川梅園に行き、今度こそパネルを確認してこようと思う。なお、書き忘れていたが、「竹あかり幻想の世界」は単独のイベントではなく、梅園に植えられた3万本もの梅が見頃を迎えるのに合わせて開かれる観梅会の催しの一つだ。今年は例年になく梅の開花が早かったそうで、残念ながら3日は完全に見頃を過ぎていた。
【追記】本文で「格納庫という言葉からは飛行機が思い浮かぶが、一帯の地形やトンネル幅が4㍍しかないことを考えれば、その可能性はないだろうと思う」と自信満々で書いてしまったが、地元では軍用機の格納庫だったと伝えられていることがわかった。太平洋戦争中、旧八女郡岡山村(現在の八女市龍ヶ原)に「岡山飛行場」と呼ばれた陸軍のパイロット養成施設があり、この付帯施設として格納庫が掘削されたという。ただ、掘削途中で終戦を迎えたため未完成のまま終わったらしい。
しかし、岡山飛行場跡地から谷川梅園までは直線距離で7㌔もある。軍用機の格納庫、あるいは米軍の空襲に備えた掩体壕として運用するのは、難しかったのではないかと思える。
また、終戦後の1945年9月、米軍が岡山飛行場を接収した際の文書が国立公文書館アジア歴史資料センターにデジタル保存され、公開されているが、これには、米軍が引き継いだ軍用機が一式戦闘機9機、九五式一型練習機37機、海軍練習機3機、海軍試作機2機の計51機だったと記録されている。海軍機は機種が明記されていないので何とも言えないが、一式戦は有名な「隼」で全幅は約10㍍、九五式一型練習機は「赤とんぼ」と呼ばれた複葉機で、これも全幅約10㍍。幅4㍍のトンネルに格納することは不可能だ。負け惜しみでなく、軍用機格納庫説には、やはり無理があると思う。
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