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宮地嶽古墳、被葬者は胸形か阿曇か

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 以前、福岡県福津市にある新原・奴山古墳群の見学に行った際、家族が「嵐のCMに出ていた光の道の場所にも行ってみたい」と言うので、そのCMが撮影された同じ福津市内の宮地嶽神社に立ち寄った。この神社にも宮地嶽古墳という7世紀に築造された古墳があり、神社の奥宮となっている。新原・奴山古墳群は2017年7月、世界遺産に登録された「『神宿る島』宗像・沖ノ島と関連遺産群」の構成資産の一つだが、同古墳群も宮地嶽古墳も同じ津屋崎古墳群(国史跡)に属している。津屋崎古墳群を代表する古墳は、むしろ「地下の正倉院」の異名がある宮地嶽古墳の方ではないかと思うが、沖ノ島(宗像大社)の祭祀を世界遺産に登録するのに、別の神社が混じっていたのでは紛らわしいと候補からは外されたのだろう。

 宮地嶽古墳は径34㍍の円墳で、長さ23㍍の国内最大級の横穴式石室があることで知られる。この石室に不動明王が祀られている(写真)。「地下の正倉院」と呼ばれるのは、300点を超える豪華な品々が副葬されていたためだ。黄金の馬具や頭椎大刀(かぶつちのたち)、ガラス板など20点は国宝に指定され、「日本の終末期古墳として、もっとも豪華な副葬品」(『日本の古代2』1986)とまで評されている。

 津屋崎古墳群は、古代の海上交通や沖ノ島祭祀を担った豪族、胸形氏(むなかたは宗像、宗形など様々な表記がある)の墓だとされ、玄界灘に面した東西8㌔、南北2㌔の範囲に計60基の古墳が現存している。個々の古墳の被葬者は不明だが、宮地嶽古墳だけは豪華な副葬品や築造時期から、胸形君徳善が有力視されている。

 この胸形君徳善は、日本書紀の天武天皇紀に登場する。「次納胸形君徳善女尼子娘、生高市皇子命」。徳善の娘、尼子娘が天武天皇に嫁ぎ、高市皇子を生んだという内容で、ヤマト王権と胸形氏との結びつきの強さがわかる。

 高市皇子は天武天皇の長男に当たる。母が地方豪族の娘だったため、皇位継承順位は低かったとされるが、天武が勝利した壬申の乱(672年)では軍の全権を任され、天武死後の持統朝では太政大臣を務めた。有能な人物で、天武・持統の信任も厚かったのだろう。高市皇子の長男が、長屋王の変(729年)で自殺に追い込まれた長屋王。古代史に特記される人物たちが、徳善の血をひいているわけだ。前掲書は「七世紀のものとして九州全体でも傑出した地位の人物の墓であろう」として、徳善の名を挙げている。

 ところが、当事者の宮地嶽神社は、この徳善説に真っ向から異を唱えている。神社が設置した説明板には、被葬者について、次のように記されている。
 宮地嶽の眼下には玄海灘の島々が見渡せ、白砂青松の河岸には日本一綺麗な夕陽が沈みます。「相ノ島」はそこに位置しています。この相ノ島こそ、海人族・阿曇の聖地です。そして宮地嶽古墳の巨石は、この相ノ島から切り出された玄武岩ですし、相ノ島の積石古墳と同質の石です。
 阿曇の祖は磯良公と申され芸能の祖と言われています。その末裔には磐井の戦で名を馳せた「つくしの磐井」がいます。そして宮地嶽古墳には阿曇の人々に繋がる九州王朝の長が祀られています。

 同じ海人族ながら、ヤマト王権と関係の深い胸形氏ではなく、王権と戦った筑紫君磐井につながる阿曇氏の奥津城だという主張だ。宮地嶽古墳石室の石が、阿曇氏の聖地・相ノ島(福岡県新宮町沖の離島)産であることを論拠としている。磐井を阿曇氏の末裔と断定し、さらには九州王朝を持ち出すなど、結構大胆な主張だとは思うが、これには神社側の政治的な思惑も感じる。宗像大社と宮地嶽神社は別々の神社で、三が日の人出などは宮地嶽の方がずいぶん上回っているほどだが、宮地嶽は戦前の社格制度の中で一時、宗像に付属する摂社に組み込まれていた。宮地嶽古墳の被葬者が胸形氏ではないという主張には、過去と決別したい意志が見え隠れするのだ。

 もっとも、津屋崎古墳群のうち、新原・奴山古墳群だけが世界遺産となったのも政治的な思惑の結果だ。同古墳群は、海を見下ろす台地上に41基の古墳が現存している。このロケーションが、海人族である胸形氏を象徴するのにふさわしいと、わざわざ同古墳群だけを抜き出して世界遺産の構成資産候補に加えられたのだ。一方で、宮地嶽古墳が外されたのは、冒頭にも書いた通り、別の神社にある古墳の存在は、世界遺産について審査する外国人を混乱させると考えられたのだろう。世界遺産登録は喜ばしいことだが、国際機関のお墨付きを得るために、積み重ねられてきた歴史をないがしろにしてまで新たな枠組みを作る必要があったのか、疑問を感じないでもない。


 ※2016年12月に書いた「的臣は浮羽にいたのか」の後半部分を書き直し、タイトルも変更しました。
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