2020/08/03
インカ・ショニバレの『桜を放つ女性』
1年ぶりに福岡市美術館内をぶらぶらしたところ、私には理解しがたい現代美術が並ぶ一角に、ずいぶん派手な作品が展示され、異彩を放っていた。色鮮やかなドレスをまとった女性がライフル銃を撃つ場面を表現したものだが、銃口から飛び出しているのは満開の花を咲かせた桜の枝で、女性の頭部は地球儀になっている。インカ・ショニバレさんという英国の現代美術家の作品で、タイトルは『桜を放つ女性』だ。
昨年春、国内初となるショニバレさんの個展が同美術館で開催された際、収蔵を前提に同美術館の依頼で制作された作品で、ドレスはアフリカンプリントと呼ばれる布でできている。不幸にして、こういった現代美術を理解する頭はないので、解説シートに書かれている文章をそのまま引用すると、「『アフリカンプリント』製のドレスは、明治期の日本が洋装の手本とした英国・エドワード朝洋式のものです。ドレスをまとう華奢な女性は、西欧列強に対抗すべく欧化政策を進めていた明治期の日本の姿ともいえるかもしれません。放たれているのが、ハイブリッドな多様性を暗示する桜であることに、ありえなかった過去と新たな未来を再構築しようとするショニバレの意志を指摘できるでしょう」。
福岡市美術館は、この美術家をずいぶん高く評価しているらしく、さらにもう1点の作品を購入し、館の前庭に展示予定だ。高さ7㍍の『ウィンド・スカルプチャー(SG)II』という彫刻で、風を受けてはためく船の帆をイメージした作品だという。購入費は約9000万円で、これとは別に約5000万円の運搬費、設置費がかかる。福岡市は以前(バブル期)、ヘンリー・ムーアやキース・へリング、ニキ・ド・サンファルら国際的にも著名な美術家の彫刻を買い集め、街の各所に飾っているが、大物の購入は久々のような気がする。本来ならば、5、6月には設置の予定だったが、強風で倒れないよう加工するのに時間が掛かり、設置は秋頃になる見込みだという。
美術館1階にある東光院仏教美術室も展示替えされ、高さ2㍍近い薬師如来立像に代わって薬師如来坐像が展示されていた。この坐像は、明治時代に住吉神社(福岡市博多区)の神宮寺だった円福寺が廃寺となった際、十二神将像とともに東光院に移管されたもので、この十二神将像も併せて展示されている。十二神将像は、このほかにも立像に付随する東光院伝来のものもあるが、現在は収蔵庫に眠っている。展示替えの度に美術館に行かないと、なかなか全ての仏像には出会えない。
福岡市美術館が改装工事で休館中だった2018年春、九州歴史資料館で、2体の薬師如来像、2組の十二神将像など東光院の仏像30体が一堂に展示されているのを見たが、振り返ってみると、あれは貴重な機会だった。東光院の仏像群を本来所蔵している福岡市美術館ではなく、借り受けていた別の資料館で全貌を目にすることができたとは、おかしな話だが。
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